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最高裁判所大法廷 昭和24年(れ)139号 判決 1951年5月16日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人青柳盛雄の上告趣意第一点、第二点、同森長英三郎の上告趣意第三点、同小沢茂の上告趣意について。

憲法二八条は、企業者対勤労者、すなわち、使用者対被用者というような関係に立つものの間において、経済上の弱者である勤労者のために、団結権乃至団体行動権を保障したものであることは、既に当裁判所の判例の示すところであって、(昭和二二年(れ)第三一九号同二四年五月一八日大法廷判決)本件における被告人等の行動が、右の意義における勤労者としての立場にもとずくものでないことは、原判決の確定した事実関係からして、極めて明瞭であるから、被告人等の本件所為が憲法二八条によって保障された団結権乃至団体行動権にもとずくものであることを前提とする論旨はすべて排斥を免れない。又原判決の確定する事実によれば、被告人等の本件所為が判示税務署職員に対する刑法九五条所定の脅迫に該当することは明らかであるのみならず被告人等にその犯意のあったことも原判決の確定した客観的事実から十分に推認されるところであり、右の行為をもって所論のように、或は社会通念上違法性を欠くものであるとか、或は刑法三五条により違法性を阻却すべきものであるとか、或は大衆運動または団体行動として正当な行為と認むべきであるとかの論は、いずれもこれを是認すべき何等の根拠もなく、論旨はすべて採用することを得ない。(この点に関しても前記大法廷判決参照)なお、記録によるも被告人等が原審において所論のような違法性阻却の事由に該当する事実上の主張をしたことを認めることはできないから原判決に所論のような判断違脱ありとはいえない。論旨はすべて採用することはできない。

弁護人青柳盛雄の上告趣意第三点及び弁護人森長英三郎の上告趣意第一点、第二点について。

原判決は被告人等は、共同して、判示のごとき言動によって、同時に、署長鍵崎修一郎外三名の税務署職員を脅迫し、因って右四名に対しそれぞれ刑法九五条二項にあたる犯罪行為をした事実を認定したのであるから、同判決が被告人等の所為に対し、刑法五四条一項前段の規定を適用したのは正当である。又、原判決が右数個の犯罪の内署長鍵崎修一郎に対する犯罪をもって、犯情の最も重いものとしたのは、原審の自由裁量に属するところであって、これについて、所論のような違法のあることは認められない。又、原判決が刑法九五条一項二項を併記したのは、本件被告人の所為について同条二項を適用するについて、その法定刑を明らかにするために同条一項をも併記したに過ぎないのであって、何等違法はなく、論旨はすべて理由がない。

弁護人森長英三郎の上告趣意第四点について。

被害者の証言について、所論のような事由にもとずいて、その証拠能力を否定、若しくは制限すべき法律上の根拠は存在しない。論旨は理由がない。

同第五点について。

原判決が、その主文第二項において、「訴訟費用は全部被告人等六名の連帯負担とする。」と宣告したのは、原審判決までに生じた一切の訴訟費用について、被告人等に負担を命じたものであり、しかも右訴訟費用の額は、本件における証人の旅費日当等刑事訴訟費用法の規定に従って現実に支出せられた費用額の全部であって、その具体的の数額は、一件記録上、たやすく計上し得るところであるから右裁判の宣告に当って特にその額を明示しないからといって所論のような違法ありとすることはできない。旧刑訴二四五条において、かかる場合に「検事之ヲ定ム」と規定しているのは、ただ裁判執行の指揮にあたるべき検事が執行の必要上、右訴訟費用額を実地に計算してその具体的数額を徴収命令書に記載すべきことを規定したに過ぎないのであって所論のように訴訟費用額を確定する権限を検事に与えた趣旨ではないのである。所論は独自の見解にもとずいて、原判決の右費用負担に関する裁判を非難するものであって採用の限りでない。

よって、旧刑訴四四六条に従い、主文のとおり判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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